チトワン(CHITWAN)

南ネパールにある王立チトワン公園の周辺の地域は、ネパールの中でも一番計画的に観光地としての開発が進められている所である。いろいろなレベルのリゾートやロッジがあるだけでなく、ネパール各地からの陸路と空路のアクセスもかなり整備されてきている。ロイヤル・ネパール航空などの国内線定期便が、メガウリ(Meghauli)、シムラ(Simara)、バラトプール(Bharatpur)の各空港に飛んでいるし、各リゾートの専用バスのサービス、また昼と夜行の定期バスも頻繁に運行されている。

王立チトワン公園は、野生動物を見るにはネパールで一番の公園だ。今世紀初頭、この地域を含むタライ平原のジャングルが恐ろしいほどの勢いで開墾されていったが、ネパール政府はいち早くこの地域を国立公園として保護する政策を取ったのであった。

古くはこの地域は、政府によってではなく、マラリアを伝染させる蚊によって保護されていたといえる。タライ平原にはマラリアのためにごく一部の民族しか、住む事は出来なかった。ここを通る旅行者もそのほとんどがマラリアに倒れたのである。特に、インドとイギリスの傭兵として出稼ぎに出かけたラウレ(lahure)と呼ばれた人々も、タライのジャングルを越えるのは戦地で戦うのと同じくらいに恐れられていた。その頃、この地域は人間の暮らせない役に立たない土地として考えられていたのだ。そのために野生の動物たちの宝庫となったのである。

しかしながら、一時、カトマンズを支配したラナ家の将軍たちは、マラリアをも恐れずに、チトワンを自分たちの狩猟をするリゾートとして利用した。ジャングルの中で豊富に繁殖していたトラや豹、犀などが狩りのターゲットだった。その頃、外国からの貴賓が来ると必ずといっていいほど、チトワンでの狩りに招かれている。今でもその頃の写真が、自分の倒した獲物の前で、その多くは虎であったが、また、狩りに使った像と共に撮った、得意気な顔の外国人貴賓の写真が残されている。

その後、DDTの普及により、蚊が激減し、この地域の開墾が急速に進んだのである。土地は極めて安く、時には只同然で手に入れる事が出来たという。山地から降りてきた農民が、木を切り倒し、何百年にもわたって自然の堆肥が厚く積もった地味豊かな土地で勝手に耕作を始める事が出来た。そのために急激に森林破壊が進み、野生動物も人間との接触の中で、人や家畜、収穫物に被害を与えたためにどんどん殺されていったのである。

そこに危機感を持ったネパール政府は、野生動物と森林の保護のために、チトワン地域を国立公園として定め、その地域内での不法な移住と森林の伐採を禁じたのであった。そして、生き残っていた野生動物の保護活動が始められた。これにあたっては、友好国の援助も与えられてきている。もちろん現在のタライは過去のような状況にはないが、少なくとも、チトワン地域では、古くからの環境が守られており、野生動物の姿を楽しむ事が出来るのである。

ロイヤル・ベンガル・タイガー、一角犀などの野生動物の暮らしぶりを見る事が出来るだけでなく、ラプティ(Rapti)川をせき止めて作られた人工の湖ラミ湖(Lamital)に生息する水鳥、周辺の森林で見られる多種多様な鳥類を間近に見る事が出来る。これらがチトワンの宝物である。

この地域に多く生えている、2メートル近く伸びるエレファント・グラス(ガマの一種)は、動物たちの隠れ場所になるだけでなく、水牛や犀などの草食動物の餌にもなり、また、地元の農民たちが乾燥して家の屋根を葺くのに、あるいは乾季の家畜の飼料として活用されている。

チトワンでは、予算に応じて各種のロッジ、リゾートがある。そのほとんどが、象に乗るサファリ・ツアーや、さまざまな民族舞踊などのショーのプログラムを用意している。

また、チトワンのロッジやリゾートはたいていカトマンズに事務所を用意しているので、簡単に宿泊の予約をする事が出来る。デラックスなホテルからシンプルな宿まで幅広い選択肢が用意されている。オプションのツアーでは、特にタル族の部落訪問のツアーがおすすめだ。そこではユニークなタル族の文化、伝統を味わう事が出来る。また、多くのリゾートでは、タル族の民族舞踊のプログラムを用意している。一泊二日の旅であれ、長期の滞在であれ、チトワンでの観光は滞在する人を飽きさせる事は決してない。

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