風穴を調べる

      〜 その現状の調査と成因の一考察 〜

 


1.研究の動機

2.風穴の調査

3.強清水(こわしみず)の調査

4.仮説その1(水が熱を奪う。)

5.仮説その2(水が水蒸気になるときの気化熱が熱を奪う。)

6.仮説その3(風穴の下が雪室や氷室のようになっているのではないか。)

7.氷がどのくらいで溶けるか確かめる実験

8.考察

9.研究の感想と今後の課題


 

1.研究の動機

 南陽市金山地区の山中に、「風穴」と呼ばれる夏でも冷気を吹き出している場所があると聞いた。その現状を調べ、その成因を予想し、実験室内で作り出してみたいと思った。

 

2.風穴の調査

 まずは、南陽市史に出ている風穴を調べることにした。

         午前11時00分から午前11時30分

 県道5号線(山形−南陽線)板宮より西の山に約2.6km入る(ここまでは、車で行ける。)。車を降り、南南西に徒歩で10分ほど歩くと、風穴に至る。

 風穴のあるところは、窪地になっており、まわりは杉に囲まれている。そのために、日当りは悪く、風も吹いていない。

 風穴の北側には石垣があり、南陽市史に出ていたように石室があったことをしのばせる。石垣をぬけると、石が積まれて窪地になった風穴が2ケ所ある。ひとつひとつの直径は、約3mほどである。温度計を石垣や風穴の石の間に差し込んでみたところ、以下のようになった。

 a 12.0℃   b 9.0℃   c 15.0℃   d 6.0℃

 e 4.5℃   f  7.3℃   g  4.8℃   h 8.0℃

 特にeでは、ひじまで石のすき間に手を入れて温度を測ってみた。すると、温度を測定していると足が冷たくなってきた。また、9月の上旬なのにセミの声が全然聞こえない。 

 

 

風穴を上から見たところ 風穴を横から見たところ

 aとcは、図のように、石垣のすき間の温度である。これからもわかるように、石垣自体はそれほど冷えていない。風穴内は、全部10.0℃を下まわっている。特に、eの4.5℃というのには驚かされた。車を止めたところの気温より、17.5℃も低いことになる。

風穴の石垣 風穴の穴

 

3.強清水(こわしみず)の調査

 風穴の調査をしている頃、金山地区には「七清水」といって非常に冷たい清水が出ているという話を聞いた。そこで、金山公民館の東海林昇氏より七清水の資料をいただいた。その中でも、風穴に一番近い強清水の内容には驚かされた。外気温が35℃の時、吉野川の水温が22℃なのに、強清水の温度がなんと6℃なのである。しかも、たぶん大鷹山の風穴と関係があるということである。これに注目し、強清水を調査してみた。

         午前11時00分から午前11時30分

 県道5号線(山形−南陽線)の金山地区の原橋から南西に100mほど歩き、吉野川の右岸に渡るとほどなく強清水に至る。風穴から直線距離で750mである。また、風穴は窪地で風穴と強清水の間は、それほど深くはないけれども沢になっている

 強清水は、角レキ岩のすき間から吹き出るように流れ出している。清水の周辺の水温は以下のようであった。

 清水の下の水を飲むところで水の中に手を入れてみたところ、冷たくて8人のうち4人が1分間も我慢できなかった。

 山口利美氏の話では、「今年は雨が多いので、清水の水温がいつもの年よりは高い」「家にパイプで水を引っ張って来る頃には、11℃ぐらいになる」ということであった。

 

4.仮説その1(水が熱を奪う。)

 最初は、地下水の流れが温度が低くて、奪っていくのではないかと考えた。しかし、地下水の一般的な温度は14℃〜16℃といわれているので、その地下水がまわりから熱を奪い4.5℃の気温をつくることは考えられない。熱は、高い方から冷たい方に移動するからである。

 

5.仮説その2(水が水蒸気になるときの気化熱が熱を奪う。)

 液体が気体になるときに熱を奪う。この気化熱が熱を奪っていくのではないかと思い、次のような実験で確かめてみた。

 乾いている石と濡れている石で温度がどう違うかを調べる。

 次のような二つのバケツを準備した。

 @ 乾いた石と温度計を入れたバケツ

 A 濡れた石と温度計を入れたバケツ(くみおきの水を準備し、石の表面が乾い  たら水をかけて濡らした。)

@、Aのバケツの温度と、その時の室温と湿度を測った。

月 日 時  刻 湿った石 乾いた石 乾 球 湿 球 湿 度
10/ 7 10:20 18.0 ℃ 18.0 ℃ 22.0 ℃ 20.5 ℃ 87 %
    9 14:45 20.0 ℃ 20.2 ℃ 22.5 ℃ 20.0 ℃ 78 %
   12 12:00 17.5 ℃ 17.5 ℃ 21.0 ℃ 19.0 ℃ 82 %
   14 10:10 15.0 ℃ 15.0 ℃ 18.0 ℃ 17.0 ℃ 90 %
   15 14:30 22.0 ℃ 22.8 ℃ 25.0 ℃ 23.0 ℃ 84 %
   17 10:35 16.0 ℃ 17.0 ℃ 19.0 ℃ 18.0 ℃ 90 %
   19 13:20 18.0 ℃ 18.5 ℃ 20.0 ℃ 17.5 ℃  77 % 

 表1 湿った石と乾いた石の温度と、その時の気温と湿度

 @ 乾球と湿球の差は、最大で2.5℃だったのに対し、湿った石と乾いた石の温度の差は、最大でも1.0℃であり、ほとんど差がない場合が多かった。このことから、石の場合、気化熱で温度が差がるのは、ほんのわずかであることがわかった。 

 A 気温より石の中の方が温度が低いことがわかったが、その差は最大で4.0℃であり、しかも時間とともに温度が下がっていくような現象はみられなかった。

 B 以上のことから、石と水を利用し気化熱では、風穴のように気温を下げることはできない。

 

6.仮説その3(風穴の下が雪室や氷室のようになっているのではないか。)

 風穴の周辺はごろごろした岩石が多いのですき間がある。そのすき間に冬の間にたまった雪や氷が夏まで存在し、雪室や氷室のようになっていろのではないか。その氷や雪が風穴の空気を冷やし、一部溶けた水が地下水となり強清水の温度を低くしているのではないか。つまり、それを模式図に表すと下のようになる。 

 

図2 風穴と強清水の関係の模式図

 

7.氷がどのくらいで溶けるか確かめる実験

 氷がそれほど溶けないものかを、実験で確かめることにした。

 @ 発泡スチーロールの箱を4個用意し8cm四方の窓をつけ、OHPのシートで覆った。また、温度計を差し、内部の温度計を測れるようにした。

 A それぞれの箱に、氷を1kg、2kg、3kg、4kg入れ、外気温、中の温度を測定し、中の氷の様子を観察した。 

 

  氷の様子の欄の「○」は、氷がまだ残っていることを示す。

         「×」は、氷が残っていないことを示す。

日時 外気温 観察結果 氷1kg 氷2kg 氷3kg 氷4kg
10/19 13:25

20.0 ℃

中の温度 0.0℃ 6.5℃ 2.5℃ 3.0℃
氷の様子
10/19 16:00

18.5 ℃

中の温度 10.0℃ 7.5℃ 2.5℃ 2.5℃
氷の様子
10/20 8:20

14.0 ℃

中の温度 7.5℃ 6.0℃ 5.5℃ 1.0℃
氷の様子 わずかに○
10/20 13:15

22.0 ℃

中の温度 11.0℃ 7.5℃ 6.5℃ 1.0℃
氷の様子 ×
10/20 17:00

14.0 ℃

中の温度 12.0℃ 6.5℃ 6.0℃ 1.0℃
氷の様子 ×
10/21 8:20

11.0 ℃

中の温度 11.0℃ 5.0℃ 4.5℃ 1.0℃
氷の様子 ×
10/21 13:15

12.0 ℃

中の温度 12.0℃ 5.0℃ 5.0℃ 1.0℃
氷の様子 ×
10/21 18:00

12.0 ℃

中の温度 12.0℃ 5.0℃ 5.5℃ 1.0℃
氷の様子 × ×
10/22 8:20

12.0 ℃

中の温度 11.0℃ 9.5℃ 7.5℃ 2.0℃
氷の様子 × × ×
10/22 13:20

16.0 ℃

中の温度 14.0℃ 12.0℃ 11.0℃ 4.0℃
氷の様子 × × × わずかに○
10/23 8:20

12.0 ℃

中の温度 11.0℃ 11.0℃ 10.5℃ 8.0℃
氷の様子 × × × ×

  表2 氷がどのくらいで溶けるか確かめる実験の結果

 

8.考察

 @ 風穴というその名の割には、内部で風は吹いていない。

 A 風穴は山の窪地にあり、寒気がたまりやすい。

 B 風穴の周辺は、火山岩が節理によって砕けた岩石が積み重なっており、すき間がある。

 C 風穴とつながりのあると思われる強清水は、8.5℃と普通の清水にしては温度が低い。

  しかし、この仮説が正しいかどうかは、風穴を実際に夏期のうちに掘ってみないとわからない。

 

9.研究の感想と今後の課題

C 身近なところにこのような不思議な地形や現象があることは驚きだった。特に夏でも4.5℃という気温や、強清水の8.5どの水温も低いことには感心させられた。

D 研究を進めてみたものの、おおむね風穴の原因は地下の氷が原因であるという 仮説が正しいのではないかとは考えられるが、結論とまでははっきりとはいえなかった。今後、もう少し実験規模を大きくして確かめてみる必要がある。

 

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