水ぐもは可能か?

〜 安心して歩ける水ぐもを目指して 〜

 


1.研究の動機

2.水に浮く方法

3.浮力の原理を調べる実験

4.ペットボトルを利用した水ぐも

5.タイヤを利用した水ぐも

6.楽に立つことのできるようになった水ぐも3号

7.ついに25m歩いた水ぐも4号

8.女子でも歩ける水ぐも5号

9.水ぐも5号の乗りごこち

10.考察

11.研究の感想と今後の課題


 

1.研究の動機

 NHKの子供番組に「忍たま乱太郎」という人気番組がある。その中で、「水ぐも」という忍法が出てくる。アメンボウのごとく水の上をスイスイと歩けたならば、実に気持ち良さそうである。4年前の選択理科の学習で、「水ぐも」をやってみたいという意見が出された。忍法に出てくるくらいだから、簡単にできるだろうということで取り組み始めたが、失敗の連続であった。そこで、選択理科では、毎年夏になるとプールで水ぐもに挑戦するのが恒例になった。昨年までの成果と課題をもとに、今年度こそは水の上を濡れないで歩きたいと思った。

 

2.水に浮く方法

 水に浮く方法や事例としては次のようなものが上げられる。
C 表面張力を利用したもの
   例) アメンボウは、水に浮いて泳ぐ。1円玉を水にそっとのせると浮く。
D 反作用を利用したもの
   例)トカゲの仲間のバシリスクは、後ろ足が長くて強く、指を広げて水面を走 り、敵から逃げる。
E 浮力を利用したもの
   例) 船が水の上に浮かぶことができる。魚や鯨が浮いてくることができる。
 これらを見ると、「表面張力を利用したもの」は、ごく軽いものしか浮かせられないようなので、水ぐもの原理としては考えなかった。また、「反作用を利用したもの」は、体重の割には大きくて力強い足が必要である。それに、忍者が静かに忍び込む方法としてうるさすぎるようなので、これも水ぐもの原理としては考えなかった。
 ある程度重いものを浮かせることができる方法、たとえ力をかけていなくても、静かに浮いていることのできる方法として、「浮力を利用したもの」が有効と考え、水ぐもに挑戦することになった。

 

3.浮力の原理を調べる実験

鉄や泥は水に沈むのに船の形にすると浮くのはなぜかを、次のような実験で調べた。(ビデオ参照)

   ねらい   船に積める荷物と船の体積はどの様な関係にあるか。

   方 法   100,200,300ccのビーカーの外の体積と、ぎりぎりでどのく らいの荷物(砂)が積めるか調べる。

   結 果

  ビーカーの体積

[cm3]

ビーカーの重さ

[g重]

荷物の重さ

[g重]

ビーカー+荷物の重さ

[g重]

100ccのビーカー 160

160

160

62

60

62

104

102

108

166

162

170

200ccのビーカー 280

280

280

98

98

84

195

200

188

293

298

272

300ccのビーカー 450

450

450

153

150

154

336

340

330

489

490

484

図1 ビーカーの体積と浮力の関係

 
 ビーカーの外側の体積は、船がどのくらい大きいか、すなわち船がどのくらいの水をおしのけることができるかを意味する。また、ビーカーの重さと荷物の重さをたしたものは、水に沈まないで浮くとこができた力、すなわち浮力を意味する。

考 察

 浮力は、船の大きさ、すなわち船がおしのけた水の重さに比例する。

例  100g重を浮かせるには、100cm3 の船が必要。

1kg重(1000g重)を浮かせるには、1000cm3 (1リッ トル)の船が必要。

 

4.ペットボトルを利用した水ぐも

 船の大きさと浮力の実験から、体重60kg重の人であれば60リットルの船であれば完全に浮かせることができる。そう考えて、1993年7月の選択理科の時間を使って、写真1のような装置をつくった。1.5リットル入りのペットボトルをビニール袋に20本入れ、ひもで結び、ひもの先を輪にしてそこに足が入るようにしただけの簡単なものである。そこに足を入れ、水の上を歩ける、悪くとも水の上に立てると考えたのである。
 ところが結果は無惨なものであった。プールサイドに腰掛けて両足の土踏まずのあたりをひもに通し、さて立とうとふんばった瞬間、一人残らず倒れてしまった。全然バランスが取れないのである。立った姿勢をつくる間もなく倒れてしまった。プールサイドに頭を打ってはいけないと考え、この年の実験は中止した。
 

写真1 ビニル袋にペットボトルを入れた水ぐも1号

 

5.タイヤを利用した水ぐも

 1994年は、前年度の失敗を生かすために、まず昔の水ぐもの形を調べた。その形を見ると、なべのふたのように丸いものが多かった。そこで、タイヤを利用してはどうかというアイデアが浮かび、さっそく近くの自動車修理工場から古タイヤのチューブをもらってきた。そして、タイヤの下駄状のものをつくり、それを両足に履いて歩こうとした。
 ところが、これでも水面には立つこともできず、すぐ倒れてしまった。船でいえば、ピッチング(前後のゆれ)とローリング(左右のゆれ)を繰り返してしまうのである。ピッチングとローリングを防ぐには、水ぐもにある程度の面積が必要ではないかと思い、子供用のプールを水面に浮かべてその上に立ってみたところ、辛うじて立つことはできた。また、タイヤを2個水面においてその上に寝そべってみると、体をほとんど濡らすことなく浮いていることができた。このことから、浮力を利用してからだを完全に水の上に出すということは可能であることがわかったが、この年も、水ぐもというには、ほど遠い状態であった。
 

写真2 タイヤを利用した水ぐも

 

6.楽に立つことはできるようになった水ぐも3号

 過去2年間の経験を生かし、3年目は、片足の下駄をタイヤ2個でつくり、それをベニヤ板で連結し、左右の足に履く下駄がバラバラにならないように、ひもで結んで水ぐもをつくった。これに乗ってみると、昨年までとはうって変わって、比較的楽に立つことができた。いよいよ水ぐもらしくなってきた。
 ところが、歩こうとしても自分の思うような方向に進めない。足を交互に上下し、何とか横に進むことはできたが、これでは、水ぐもというより「水がに」である。とはいっても、安定して完全に水の上に立つことができたのは、自信につながった。

 

7.ついに25m歩いた水ぐも4号

 1996年も前年までと同様に、1学期の選択理科の時間に水ぐもに取り組んだ。選択理科の希望者も多いし、3年生全体でも水ぐもをしたいということもあり、この年は、水ぐもを2台作成した。前年には水の上に完全に立てたので、浮力の利用による水ぐもの原理には間違いないと考えた。あとは、いかにして前に進む方法を考えるかである。
 前に進むときは開いて、後ろに進むときは閉じるひれをつくってみてはどうかという案が出され、それを採用した。また、廃品を利用しようということで、魚屋さんからもらってきた発泡スチロールの箱を利用し、その体積を計り水ぐもにした。それが図2である。この水ぐもを利用し、初めて水の上を25m歩いた生徒が2人でた。それでも、体重が軽い生徒は水ぐもがうまく沈まなくてひれが水の中に入らず、なかなか前に進まなかった。バランスをうまく取れない生徒は、左右のげたがローリングしてしまい、倒れてしまうことがあった。女子でも安心して乗れる水ぐもの製作が課題となった。

図2 25m歩くことができた水ぐも4号

 

8.女子でも歩ける水ぐも5号

 前年の反省を生かし、1997年はひれを水ぐもの下につけた。止まっている時は垂れ下がっていて、前に進むときだけ閉じるように、アルミ板をつけた。それが図3と写真4である。

図3 水ぐも5号の底のヒレの様子

写真4 水ぐも5号の底の様子

 女子でも安心して歩けるようにローリングを防ぐ方法を考えた。それは、水ぐも3号と4号では、げたとげたの間をひもで結んでいたが、ちょうつがいと板で結ぶことによって、ローリングを防ごうとした。これは非常にうまくいった。その板の動きが下の写真である。

写真5 水ぐも4号にローリング防止の板をつけ前後させたもの

 

9.水ぐも5号の乗りごごち

 水ぐも5号は、やや重い欠点はあるものの、女子でも安心して乗ることができた。距離スキーのように、スッスッを水の上を歩くとまではいかないが、しずしずとなんとか歩くことはできた。男子はもちろんのこと、女子でも恐がらずに乗れたのはよかった。
 

 

10.考察

C水ぐもは水の浮力を利用すると可能である。体重1kg重あたり1リットルの下駄をつくればよい。
Dピッチングやローリングを防ぐために、水ぐもの面積をある程度広くする必 要がある。
Eローリングを防ぐために、板をちょうつがいでとめ、左右の下駄の動きを制 限するのが有効である。左右の下駄がバラバラだとほとんどの場合は倒れてし まう。
F前進するためのひれを下駄の下につけるのが有効である。

 

11.研究の感想と今後の課題

C毎年同じ課題に取り組んで来たわけだが、前年までの取り組みのビデオや実 物を見ることによって意識を高めることができた。先輩の実験を受け継ぎ少し でも前進させようと毎年取り組んで来れたのがよかった。
D理屈はわかったとしても、現実に自分達の手で作ろうとすると実に難しかっ た。また、よくテレビで出て来る忍者の水ぐもでは、体積が小さすぎて実際に は浮くことができないと考えられる。昔の忍者が使っていた水ぐもが残ってい れば、どんな材料で作られ、どの様にして使用したのか見てみたいものだ。
E今回までは、身の回りにある材料で作ったのですいすい歩くまではいかなか ったが、下駄を船の形にすれば、前進するときの水の抵抗が小さくなると思わ れるので、より本格的な水ぐもになるのではないだろうか。
F最後に、「水ぐもを作ってみるか?」というアイデアを出してくれた4年前 の先輩方、それを毎年改良していってくれた先輩方に感謝したい。

 

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